Old Photograph
子供の頃、家に置いてあったレコードは、イヴ・モンタンの「枯れ葉」と父が好きだったアルゼンチンタンゴ、私がねだって買ってもらったゲゲゲの鬼太郎のソノシートと映画サウンドオブミュージックのサウンドトラック盤だった。
それしか無かったから、チャンポン状態で、あるだけのレコードを全部、繰り返し繰り返し聴いていた。
小学生の頃は、歌謡曲も好きで、アグネスチャンのレコードを買った。
中学生になると、母が近所のジャズ喫茶にビーフシチューを食べに、よく連れて行ってくれた。
まだ、ジャズのジャの字もわからない年頃で、薄暗い店内で食べるのだが、喜んでついて行った。
母はジャズサックス奏者の渡辺貞夫さんのファンだった。
当時、私も母の影響を受けて、お小遣いで、アルバム My Dear Life を買った。
渋すぎて、クラスに友達は少なかった。
でも今、聴いてもいいなと思う曲です。
中学、高校と放送部に所属し、クラスメートからいろんな影響を受けて、ロックが好きだった頃もあったけど、母の影響は大きかった。
大人になってから、母と一緒にブルーノート東京のナベサダのライブへ2回ほど行ったことがある。
演奏しているアーティストと距離感が近くて、母がすごく感激していた。
2013年、母が他界して、お葬式のとき、バックに渡辺貞夫の曲を流すことにした。
葬儀には合わないかなと思ったけれど、意外にマッチしていた。
「最後のお別れ(出棺)のときの曲をどうしますか?」と葬儀社の人に聞かれ、
ただ、なんとなく、Old Photograph という曲を選んだ。
葬儀が終わってから、私には、いろんなことが重くのしかかってきた。
実家の整理、弟の成年後見、相続・・・。
暫く、眠れなくて、通勤途中で信号無視して交差点に突っ込むような事故も起こした。
こういう時期は車の運転はしてはいけないものだと思い知らされた。
弟の成年後見の手続きや財産相続を担当して下さった弁護士さんのアドバイスで、実家の土地は早めに売ることにした。
実家の整理は私一人では無理だったので、業者の方にお願いしたのだが、
「何を残しておきますか?」と業者さんに言われ、貴重品は母がほとんど、私の家に持ってきていたので、
「写真があったら残しておいて下さい。」と答えておいた。
家の整理がついた頃、業者さんから段ボールに入った家族の写真を受け取った。
ナベサダのアルバムを聴きながら、家族の古い写真を見ていたら、最後のお別れに使った Old Photograph が流れてきた。
この曲、よく聴いてみると、私の拙い訳だけれど、細かい部分を省いて、こんな意味の詞だと思う。
私は沢山の思い出を忘れることはできない。
私たちは別れることになっても、私はこの記憶を誇りに思う。
後悔のない人生だった。
私はいつも、あなたのそばにいる、古い写真のように。
偶然なのかも知れないけれど、母からのメッセージだと思ったら、涙がとめどもなく溢れてきた。